パーソナルAIの存在意義


ChatGPTが一世を風靡し、文章や画像、音声、プログラムコードなどさまざまなコンテンツを創りだすことができる生成AIが大注目されています。ChatGPTなどが、大多数の利用者でも同時並行的に対応できるあまりにも高性能な一つの大きな塊りのイメージのAIなのに対し、パーソナルAIとして作成されたデジタルクローンは、個性を持ったヒトのイメージの個々に独立したAIとなります。

この分野は、オルツ社が長年先行して開発を進めているわけですが、現時点ですでに姿形がまるで自身のクローンのような存在をデジタル上に生成できてしまいます。
本人画像と音声から本人そっくりのデジタルヒューマンが生成できてしまうことは、ディープフェイク動画のニュースなどによってすでに知れ渡っておりますが、偽物に何か行動させれば、その真似された本人を知る人であれば性格や話し方などの違いにより、直ぐに違和感を感じることができます。
でももし、その人の個性まで学習したAIが、その人そっくりのデジタルクローンになったら場合はどうでしょう?
技術的には、本人そっくりの思考に基づき会話が成立できるので、今後改良を重ねればクローンだと気づかないレベルになりそうです。当然その完成度は、どれだけその人の情報をデジタル化して学習させるかに依存します。現時点では、新たに登録する画像や音声データなどの他に、Web上で収集できるSNSの情報がメインとなるので、まだまだ限定的な感じではありますが、十分自分に似たデジタルクローンと普通に会話できるレベルにはなっているようです。こうして、昔から人類の夢であった自律型のAGIは、まずはデジタル空間の中で実現されようとしています。
デジタルクローンが出来てくると、クローンは眠らせる必要がないので、24時間いつでも自分の代わりにクラウド上で働かせることとかが可能です。将来的には、これが疑似の肉体を持ったロボットに搭載できるようにすることで、かなりリアルな体つきのクローンが生成されるようになるでしょう。

たとえば、今でもネットで本を購入すると、他の人はこんな本も読んでいますといった具合に、ネットショップによっては同じ本を購入した同じような嗜好の他の人の購買履歴から推測してオススメをレコメンドしてくれることがあります。これがパーソナルAIのデジタルクローンになれば、たとえば同じ作者のデジタル書籍を先に大量に読み込みクローンが、その中で当人が一番気に入りそうな本を推薦してくれます。デジタルクローンは、身体の衰えがありません。よって、本人の死後であっても、継続して仕事をこなすことが可能です。認知症になって、ボケる心配もありません。

それでは、デジタルとはいえ、自分と同じクローンを求める理由はなんでしょうか?
せっかく時間とIT資源を使ってデジタルヒューマンを作るのであれば、優秀な人間の個性を結集して稼ぎが得意な有能なデジタルヒューマンばかりにした方がよさそうな気がしますが、作業の自動化が目的であれば、AI搭載のRPAに任せれば済むことなのでパーソナルAIの目的とは関係なさそうです。
人間社会は、個性や価値観が違った人達の集まりです。自分と同じ性格の人が近くにいてくれたら、どんなにいいだろうと思ったことはありませんか?
いちいち指示しなくても、自分が意図した通りに代役として働いてくれるクローンがあれば仕事を任せても安心できるのではないでしょうか?つまり、自分の代わりであれば自分と同じ思考で動くヒトでなければ結局安心して任せることができず、自分の性格と違ったヒトに頼めば自分には予測不能な動きをしても仕方ありません。そうなれば、結局他人に指示を与えて作業してもらうケースとあまり違いがありません。
しかし、自分の性格や考え方も時として、得てきた体験や情報の内容によって変化します。そのなると、本人が死ぬまでクローンも同期をとるようにアップデートして、死ぬまで一緒に歳を取る必要があるかもしれません。
また、本人と同じ唯一無二の存在だから、クローンが作成したクリエイティブな作品は本人の著作権が主張できるかもしれないし、逆にクローンが起こす事故やトラブルは、本人の責任が問われるのかもしれません。 権利や権限の問題は複雑で、クローンであれば、機密情報のあるサービスに個人認証を通過させてしまって良いのかなど、もうすでに、デジタル上で成りすましが横行し、クローンか本物か見分けがつかなくなってきているので、パーソナルAIが普及してくるとさまざまな法整備にも影響しそうです。Webを使ったサービスが多い現代では、個人認証できなければクローンに作業させることはできないし、認証できてしまえば、責任は本人に求められるのはいたしかたないことになり、さまざまなリスク管理も重要となります。

こうして考えると、違う目的で、自分の性格が嫌いな人は、もっとポジティブなクローンを望むかもしれないですし、若かった頃が自分は一番好きだと思う人は、二十歳の頃の自分を死んだ後も残しておきたい思うなど、今の自分とは別のデジタルクローンを作りたいという希望も多くなりそうです。
今後、憧れの芸能人などのデジタルヒューマンを希望する人は増えそうで、人気者のクローンを売り買いする時代になるかもしれません。この機会に、個々に個性をもったパーソナルAIの存在意義を一度真剣に考えてみるのも面白いかもしれません。


パーソナルAIに、権利や権限を与えるべきなのか?


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